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脳内のイメージを出力するための変換とかそんなイメージ

2024'04.19.Fri
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2007'05.23.Wed

路瀬さんの「思念の魔術師」サイドストーリーです。
まだまだ途中ですが、随時加筆、まとまり次第HTML化の予定。

路瀬さんへ、
勝手にはじめちゃってすいません。
何かまずいところがあればバシバシ指摘してやって下さい。


 死体は折り重なって、そのまま一つの地層を作ってしまいそうなほどでした。腐り始めた屍肉をさらに屍肉が覆い、あたかも帰らぬ人が互いを慰めあうかのように寄り添いあっているようでした。彼等は己の死臭が愛する人の鼻に届かぬように、同胞達の屍に自らの体を持って蓋をしていきました。
 もっとも、人々の鼻に腐臭の届かないのは、彼等がその匂いに慣れきってしまったからかもしれませんが。
 足は萎え、手は鈍り、悲しみは言えず、それでも尚眼は血走り、見る物は敵でした。互いに同胞の痛いを埋めるだけの猶予すら許さないほどに戦線は緊迫していました。その張りつめた空気は非戦闘地にまで届き、市民の心の隙間風とて、冷たく吹き荒れていました。
 白い花が血を吸って赤く咲き始めたのはいつの頃だったのでしょう。妖艶なその色にすら、誰も違和感を感じなくなっていました。

 -*-

 エレオノーレは荒野をひた走っていました。返り血で濡れて重みを増した軍服と、姿を隠す魔術をその身に纏いながら。敵前逃亡は軍規違反だったのですが、もう彼女の心には忠誠心がこれっぽっちも残っていませんでした。脳裏に過ぎるのは、自分を庇って散った仲間の最期。せめて、彼のためにも自分は生き残らなければいけない。その思いだけが、今のエレオノーレを突き動かしていました。
 やっと戦火を逃れて、見晴らしの良かった荒地から、視界の悪い森へ。魔術を解けば疲労が波の様に襲って来ました。適当な大きさの木の陰に、身を隠すように蹲って疲れた体を休めようと勤めますが、張りつめた精神はなかなかそれを許しませんでした。息を潜め、潜め、足音や魔力の波動が周りに無い事を何度も何度も注意深く確認して、やっと長い息を吐きだしました。荒い呼吸が後に続きます。自然と涙が頬を伝い、泥で汚れた顔をさらに汚していきました。それを拭う気力もおきず、思考すら止まって、彼女はあたりに転がっていた屍のようにじっとし続けていました。
 視界の下部には、木から落ちたのでしょう、紅葉とは全く違う赤みを孕んで湿った落ち葉が薄暗い景色に色味を添えていました。小さく咲く花の色もまた、赤。しかしその花は力強く咲き誇っていました。
 エレオノーレは不意にその景色の意味に気がついて、目を見開きました。地面を見下ろすのは怯えきった瞳でした。目を逸らしたいのに、そうは出来ませんでした。隠れた光景を、意思に反して意識しては否定するのに、その予測はだんだんと確信に変わっていきました。萎えた足を叱って、彼女は再び一心不乱に走りだしました。
 気分が優れず、立ち止まればその瞬間に吐き出してしまいそうでした。エレオノーレはぬかるみに足を取られ、滑って、そのまま落ち葉と腐葉土に顔を付けました。軍靴越しに感じる固体の感触でぬかるみの正体に気がついて、エレオノーレはそのまま胃の中の物を全て履きだしてしまいました。胃液が喉と舌を焼きました。
 腕にも足にも力が入らず全てがどうでもよくなって、吐瀉物だけからわずかに逃れて、エレオノーレは暫くそのまま寝転がっていました。再び、涙と泥が顔を汚しました。今の自分はどれだけ酷い顔をしてるのだろう。きっと、酷すぎて想像できないくらいなのに違いない。ああ、さっき、胃液ごと記憶も全て吐きだせたら楽だったのに。強く目を瞑って、ありったけの涙を押し出して、次に目を開けたとき、視界に飛び込んだのは、軍服の袖でした。渇き初めて、茶色くなりだした血液と泥が混じって、そろそろ区別がつかなくなりそうです。この血が誰の物だったのかを思いだして、エレオノーレは再び立ち上がりました。足を引き摺るときに感じた僅かな抵抗の感触に表情は歪みましたが、それを振りはらうだけの気力は残されていませんだした。心の中で、ぬかるみに踏みつけたことを謝罪して、木に頼りながらよろよろと歩を進めて行きます。心は血の穢れから逃れたかったのに、今の彼女の体は死の気配がこれ以上ないほどに取り巻かれていました。
 光の当る方向を目指していると、森の出口が見えました。遠くに丘が見えます。余りに開けた土地だったので、反射的に警戒心が生まれましたが、そこには敵も、仲間も、どちらのものともつかない屍の山もありませんでした。
 再び、へたり込みそうな体を引き摺りながら丘の上を目指しました。その向こうに、求めてやまなかった平和があるように思えてならなかったのです。見渡す限り、穢れたものは、エレオノーレだけでした。それでも、心は今までになく安らいでしまいました。こんな場所で終われるのなら、それはそれで幸福なのではないかという思いがよぎるのですが、不思議なもので自然と体はより明るい場所を求めて、足は自然と動くのでした。
 丘を昇りきったとき、エレオノーレは思わず感嘆の声を上げました。疲れが、拭き飛ぶかのように感じました。眼下に広がるのは緑の絨毯。その中央には巨大な四つの神殿が見えました。再び足が明るい場所を求めて動きだします。ふと後ろを振り向けば、先ほどまでの境遇が嘘だったかのように、美しい光景が広がっていました。足が縺れて、そのまま素直に丘を転げ落ちました。転がりきって、仰向けに寝転がると、そこには眩くて目も開けていられないほどの青空が広がっていました。
「空が、まだこの星に残っていたなんて」
 とっくの昔に愛想をつかして出て行ったんじゃないかと思ってた。自然と続いたその言葉がおかしくて、一人笑った。
「笑ったのも、久しぶりだぁ」
 それがまたおかしくて、エレオノーレは暫く一人で笑っていました。こんなに死に近い場所にいるのだから、手を伸ばせば天にも届く気がして、重たい腕を上げて見るのですが、まさかそんなはずもなく。伸ばしたその手は空しく虚空を掴むだけでした。それでも、心は堪らない程満ち足りていました。
 幸せもまた涙を流すのだということを、エレオノーレは初めて知りました。
 行くあてがないので動けずにいたエレオノーレの頭にある単語が浮かび上がりました。光の神殿スカイブライティスト、なんと今の青空に相応しい言葉。とくに目的はなかったのですが、そこに行くことがとても素晴らしいことと思えて、エレオノーレは空間転移を実行しました。
 
 -*-

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